特集: AI人工知能が変える未来
株式会社AIWIL システム開発事業部
第3回 AIの構造と制御
あなたが考える人工知能の構造
今あなたのチームで、AIの構造と制御方法を決定しようとしています。
はじめに、あなたのチームはどのような構造でAIを開発しますか?
その人工知能は、どのような単位で機能しますか?
あなたなら、AIをどのように制御するでしょうか。
あなたがITエンジニアであれば、この問いにどのように答えるべきなのか興味深いものがあるでしょう。
今回はこの問いに対する「AIWILの答」をお話します。
構造はスコープで決まる
「人工知能に最低限必要な構造」そして「人工知能の単位」はどうあるべきでしょうか。この問いに対してエンジニアが明瞭に答えられるためには、初めに「開発の範囲」が明確になっている必要があります。
ご存知のとおりですがプロジェクトには必ず「スコープ」というものがあります。スコープはプロジェクトマネジメントにおいては絶対的なGOALに等しいものです。全てのプロジェクトが、あらかじめ設定した作業を消化して目標とする成果物の完成を目指すために存在しています。
それでも人工知能開発というエキサイティングなプロジェクトならば、通常のプロジェクトとは異なる進め方の方が相応しいのでしょうか。もしあなたならどう考えるでしょうか。
前回の第2回「知能とは何か」では「知能の定義」について注目しました。エンジニアがAIを語る時、知っておきたい概念として「知能であれば感情を持つことになるのか」という興味深いテーマ、そして「知能、記号言語、感情との関連性」をお話ししました。
今回の特集記事では特に、「人工知能として最低限必要な構造と知能の単位」について注目します。あなたがまさに今、ITエンジニアとしてAIを開発する立場となった時にまずは何から決定していくべきなのかを考える機会になることで、エンジニアだけではなくAIに興味を持つ全ての方のお役に立てればと思います。
AIWILの考えるAI人工知能の定義
AIWILの考える人工知能
AIWILの考える人工知能を非常に端的に表現すれば、以下のようになります。
思考主体として、それだけで自立可能な最低単位の閉じたシステム
固定的なプログラムが実行されるのではなく外界の刺激に対し「独立して・個性的に・主体的に・反応する」人工物
「情報を受け入れる(入れない)・内部反応を起こす・外部へ行動を表明する(しない)」というコミュニケーション機能
一見何か難しい定義のように見えますが、実は当たり前のことを端的に表現しているに過ぎません。一つ一つ見てみましょう。
最低限必要な「構造・単位」
まず初めに人工知能として最低限必要な「構造と単位」とは何かを考えます。
思考主体として、それだけで自立可能な最低単位の閉じたシステム
これは「目的とする思考を行うため、幾つかの機能が有機的に結びついて全体で機能する、それだけで成り立つ体系」です。
人間に例えるならば、それぞれの役割を持ったいろいろな機能パーツが集まって構成されている「脳全体」でしょうか。部分的なそれぞれの機能に分ければ、それは構成要素に過ぎません。AI人工知能ならば、個別の機能や技術の一つ一つは「パーツ」であってそれだけでは「知能」ではないのです。
ただし処理能力、速度、思考範囲といった「程度」については問う必要はありません。人間でも計算の速い人がいます。反応が早い人もいます。幅広く思考できる人もいます。得意とする領域が異なっていても、どれが知能かなどと言われることはありません。
個々の機能だけでは能力全体ではなく要素に過ぎません。AIの個別機能や技術では、ディープラーニングや音声認識機能といった例があげられるでしょう。人の脳で言うならば「海馬」はパーツであり、「記憶力」や「言語能力」はもちろん重要な構成要素ではあっても、脳の一部の機能に過ぎないということです。
もし仮に、脳の一部である「海馬」だけに処理をまかせたとします。今、私の大好物の「ホクホクコロッケ」が惣菜コーナーに積まれています。残念なことですが、コロッケという私の幸福の象徴を認識した上で、おいしいものであったことを思い出し、買い物かごに入れながら、清算をしようとレジに向かって行くような簡単な意思決定でさえ、「海馬」だけの今の私には無理なことでしょう。
これらはとても当たり前のことのように思えますが、議論をいたずらに拡散しないためには知能と呼べる「単位」についても敢えて定義すべき大切な前提条件です。もしこのように定義すれば、ディープラーニングや音声認識機能といった個別機能だけでは、とてもAIとは呼べないことに気付きます。それはまるで「アクセルペダル」を作って「車」だと呼んでいるようなものです。
刺激と反応
次に、知能と呼ばれるべきものの「活動の特性」について考えてみましょう。
固定的なプログラムが実行されるのではなく外界の刺激に対し「独立して・個性的に・主体的に・反応する」人工物
あらかじめ手順が書かかれた固定的なプログラムは、残念ですが知能ではありません。思考のルートを試行選択しながら、自ら成長と変化が起こるように反応していくシステムこそ知能であると考えます。
動物の特性や成長で考えてみます。熱いものに触れて火傷をした辛い経験がある場合、知能を持つ生命ならば、今後は火傷の原因となった行動を固定的に繰り返すようなことはせず、一定の温度を超えるものには触れないように注意するという「新しい方針」が、経験によって他よりも優先されるべき意思決定として選択されていきます。
実はこの例の中に「AIWILが考えるAIデザインのコア」が隠されています。これだけでは一見してAIとは何の関連性もないように思われるでしょう。しかしAIWILでは、この例の中に生物の自然淘汰と進化論の秘密そのものが隠されていると考えています。
もちろん、AI設計におけるその本当の意味についての詳細を語るのは紙面の都合で難しいものがあります。またエンジニアに今すぐできることを探っていくための特集記事の目的とも多少異なってきます。
一つだけ言えるとすれば、それはAIWILのAI設計の重要な要素であり、人工知能にも「それ」が重大な影響を与えるものになるだろうとAIWIL創設以前の1980年代から創設者によって考察が続けられている理論のコアなのです。
今回の特集記事では「今すぐエンジニアにできること」を紹介するために必要な記事を中心にします。しかしこれ以上の深い議論についても、この後の特集やAIWILで開催しているエンジニアのためのAI研究会などで、少しでも多く触れていきたいと考えています。
コミュニケーション機能の重要性
最後に、コミュニケーション機能の必要性について考えます。
「情報を受け入れる(入れない)・内部反応を起こす・外部へ行動を表明する(しない)」というコミュニケーション機能
知能であれば「外界とのコミュニケーション能力」が条件になるべきだとする理由は明白です。なぜなら外部から何らかの情報を観察できない時、また外部との交渉が皆無の時、それは少なくとも「人類にとってあまり議論の意味がない存在」です。意味のある定義には、一定の条件と制限が必要です。
外界とのコミュニケーション能力が必須となるもうひとつの理由は、前回の第2回「知能とは何か」で既に触れたように「外部からの示唆を受け取り、フィードバックとして活用する機能」がないならば有益な成長・発展の機会が激減するということです。
そのような構造は、知能としては劣性でしょう。「外界とのコミュニケーション能力」を持てないような劣った構造を人類がわざわざ作り出さなければならない日が訪れるとすれば、それは「AIに対する恐怖がもたらす懐疑」がほとんどの要因を占めているのではないでしょうか。
そしてもっとも恐るべきは、”悪意ある一定の目標”のために存在するような「制御不能のAI」を作り出すために、あえて外界とのコミュニケーション機能を除外することが選択された時なのかもしれません。
このように考えれば、そろそろ人類は「AIの構造に関する協定とその遵守にかかわる監視のあり方」についても議論するべき時期に来ているのかもしれません。
好奇心は必要か
AIが好奇心を持つ日
ここで、とても興味深い想像をしてみたいと思います。もし「好奇心」がAIに備わればどのようになるでしょうか。
好奇心というものは知性にとって非常に重要な要素です。それは「自ら望んで探査する」能力です。先ほど「熱いものに二度と近寄らないのは進化と淘汰の秘密の一つである」と述べました。
しかし逆に「熱いものとはどのような温度か。すべての温度帯が危険なのか。好ましい暖かさはないのか?」というチャレンジングな好奇心もまた、人類やその他の優れた動物たちを成長させてきたことは事実です。
AIWILでは、AIが進歩していく将来についてはともかく、現時点では「好奇心」を人工知能に最低限必須となる条件とは考えません。なぜならば「インプットされた情報に対して結論を選択し判断する能力がある」にも関わらず「自ら進んで探索する行動がなければそれは知能ではない」というのでは、「思考する存在」の条件としては広すぎるからです。
もちろん、人工知能が好奇心と同等のものを持てば、それは劇的な変化と成長をもたらす要因となる可能性があります。その是非については検討する必要があります。
究極的には「生き物のように好奇心を持ち、自らの意思で学習すべき事柄を選択し、喜びと悲しみ、嫌悪と好感(=受け入れと拒絶という主体的意思)まで持つことで、自らの価値観や感情に似た機能-AIの意思(WILL)を持つ」存在にまで至ることでしょう。
人類がAIに抱く不安と期待のうちで、最も大きなものが「機械が好奇心を持ってしまうこと」なのかもしれません。
人工知能に必要となる制御
このように考えてくると、人工知能の構造は「人類の目的にとって安定的な方向性が堅持される」ように、「AIの制御構造」として以下のような特性を付加することをAIWILは志向しています。
「変えがたい制御機構、超越できない反応の範囲、自由思想に対する一定の障壁」という仕組み。これを決して変更できない「ハードウェア的な構造」としてあらかじめ持たせて創造すること
この制限の範囲においてのみ「自律反応による柔軟な成長と変化」が可能となる仕組みであること
自律反応が人類の脅威とならないようにするための構造は「変えがたい制御、限界、障壁」です。そのヒントは、実は人間をはじめ自然淘汰の中で生き残ってきた生物の多くに既に備わっているものと同じであるとAIWILは考えます。そのことに関する洞察と主張についても、今後の特集の中で触れることができればと思います。
人工知能とそれを取り巻く環境
「学習」は人工知能の能力ですが、「教育」は外界から与える仕組みです。この教育システムは「知能」とは分けて考えるべきものです。言うまでもなく人類のためにAIをリードしていく教育システムは人工知能育成の際に必ず必要となってきます。
しかしそれは「知能にとっての外部環境」であって、教育システム自体は知能ではありません。別の観点として考察するべきです。
現在の取り組みの例では、ディープラーニングなどのAI研究で行われるようなインターネットを介した情報付与、またはビッグデータを与えて深層学習を繰り返させるような取り組み、それらが「教育システム」にあたると言えます。
人工知能は誰でも作れる
AIはあなたが作る
以上のように、たとえ思考能力や処理速度の程度を問わない最低限のレベルであっても、AIWILの考えるような本当の人工知能の実現はまだ先であると言わざるを得ないでしょう。しかし、その時は必ず訪れます。
今でも、数学的な知識などを必要とせず「観察に基づいた経験的な実験」や「基本的な取組みの実験」程度ならば、「あなたの考えるAI人工知能」をパソコン上のプログラミングを通して現実にシミュレーションすることが可能です。処理速度や機能の程度が、社会的基盤での有効性という面でまだ現実的でないかもしれませんが、非常に面白い取組みになるはずです。
エンジニアそれぞれが研究成果をオープンに持ち寄って発表する場を盛り上げていくことで、「あなたのAI」が、いつか必ず人類全体の社会の豊かさに貢献できる日が訪れます。
基本的な定義や構造のアイデアは、誰でも考え抜くことが出来るのです。AIはグローバル企業だけに許された「おもちゃ」ではありません。私たち人類の友となるべき「希望の存在」です。AIに興味を持つITエンジニアは、ぜひこの特集記事に隠された秘密や、ここから感じられるインスピレーションを参考に、あなたなりの「制限・自由・反応」の世界を提示してみてください。
AIWILのAI理論の核心に通じるようなヒントを、いまひとつだけお話出来るとしたら。。それは「進化論」というキーワードです。
このキーワードの中に「人工知能の真の方向性に関するひらめき」を見出すことができる賢明なシステムエンジニア諸氏から、エキサイティングで可能性に満ちた熱いメッセージがいつか届くことをAIWILは心待ちにしています。
今回のまとめ
第3回目となる今回の特集記事「AIの構造と制御の重要性」では、まずはAIの構造を決める必要があること、そのためにはAIと呼べる単位を明確にすることについて確認しました。
そしてAI人工知能と呼ぶには固定的プログラムの実行ではないはずであるということ、その実現の条件として「自律的な反応」と「コミュニケーション機能」が前提となることなどを提示してきました。
しかし、ITエンジニアにとっての真のインスピレーションの糧となるのは、AIWILのAI理論の核心でもある「進化論から得られるヒント」なのではないかと考えます。
ここまで読み進めていただいた賢明な諸氏は、「制限する構造」こそが重要な課題になると気付きはじめているはずです。しかし今はひとまず、「無秩序で自律的な反応を自由に行うプログラムのシミュレーション」を行ってみることから、すぐにでもチャレンジを始めてみてはいかがでしょうか。
さて次回の特集からは、いよいよ知能のコアにせまっていきます。
次回の第4回「成長する知能」では人工知能開発を行うためにITエンジニアが考察しておくべき前提として「記憶と知能の関係」、「人の知能の形態が理想なのか」という観点を中心にお話していきます。
これらの前提知識を充分に検討したあとに、具体的に実際のAI開発用のプログラム言語の特徴を解説しながらITエンジニアが今すぐできることを順次紹介していく予定です。
【株式会社AIWIL システム開発事業部】